デザイナーからの100の質問

100は大げさかな。でも50よりは多かったよね。

ロゴデザイン、ツール類のデザインをお願いしているsanoemi+さんから「ヒアリング」と称してメールで質問状が届いた。「すごく長いです。」って書かれてて、確かに長いメールだった。
僕のこと、うどんのこと、ダシのこと、製麺所のこと、家族のこと、などなど。

正直、回答するのにはホネが折れた。
僕の仕事場と彼女のところは地理的に離れてて、なかなか気軽に顔を合わせて打ち合わせ、ってわけにいかない。彼女は制作プロダクションでまじめに働いてるし、家庭もある。時間はどうにでもなる僕が出向けばいいんだけど、なかなかそれもかなわず、というところで、メールで聞いちゃえ~!ってところかな。
これだけヒアリングの項目を書き出すのもきっと大変だっただろうな。とても真剣に取り組んでくれているのがよくわかる。ありがたいことです。

さて、いざ回答しようとすると、あれれ?なかなか筆がすすまない。
誕生日や血液型、星座から始まって、別になんてことはない質問が大部分だし、彼女としては僕の生きてきた背景や製麺所を始める動機をもっとちゃんと理解しないと、っていう思いで聞いてくれてる。
なのに、なんでかな、なかなか答えにくいんだ。
書けるところから書き始めて、後に残った質問を見てると、どうやら、これまで僕が古い記憶を封印してたこととか、ちゃんと向き合わずにいたこととかが絡まってる。そういうのはやっぱり書きにくい。

ただ、やっぱり書かないとね。僕が考えてるもの、やろうと思ってることを伝えないと、彼女がカタチにできるわけないんだから。
と、がんばって書いてるうちに、少しずつ自分の中にあったものが言葉になってくる。
なんだか、自分のこれまでの人生の棚卸しをしているみたいな気分(これもちょっと大げさかな)。この質問に答えたから見えてきたものがたくさんあった。

結局、三日がかりでなんとか書き切る。ちゃんと考えられなかったところもあって申し訳なかったんだけど、なんとメールで千行。もうちょっとまとめろよ、って話なんだけど、まとめようとすると自分の思いが伝わらない気がしていろんなフォローを文中にいれたからね。
Skypeで話した方がよかったかな?でも、たぶん文字に書いたから書けた、ってところがきっとある。

sanoemi+さん、どうぞよろしくお願いしますね。


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やっぱり、いりこが好きだから。

イリコスキー。この響き、我ながらかなり気に入ってる。
いりこ好き、そのまんまだけど。
このブログを読んでいただいている皆さんには、どう映ってるかなぁ。

趣味でうどんを打っていたころは、僕のうどんは「良庵」って呼ばれていた。僕の名前が良だから。
製麺所の名前を決めようと思って相談した人たちからは、「『りょうさんのうどん』ってどう?」というアイデアもいただいた。彼らからは「りょうさん」って呼ばれてる。

でも、自分の名前を屋号につけるのはね(だって自分のことをさん付けするのとか、抵抗あるし)、何か他にないかなぁ、と考えてた。
「山下がつくるうどん」以外の名前で、いいものないかな、って。
うどん、小麦粉、塩、香川県…なんだかどれもぴんとこない。

この連休に、友人のグラフィックデザイナーの自宅へ遊びにでかけた。そして、彼女の夫は建築家。もちろん、僕が打ったうどんとダシを持って。
そう、デザイナーにはロゴや販促ツールなんかの相談に、建築家には製麺所の内装の相談に乗ってもらおう、あわよくば実行までお願いしてみよう、ともくろんでいた。今の僕にはうってつけのご夫婦だったわけ。

「それで、お店の名前はもう決まってるんですか?」みたいな話に当然なって(ロゴだってつくってもらわなきゃならないしね)、「まだまだ!絶賛大募集中よ。でもいいのが思いつかなくて」なんてことを話してた。
そうすると彼女は、いりこ、いりこで何かないですかね?なんてことを言う。
いやいや、製麺所ですよ?うどんですから。いりこってあなた、それダシですから。

そんな反応をよそに、「イリコスキーってどうですか?」と彼女。

いりこ好きー。え。意表を突かれた。でも、それええやん。
どうやら小さな子ども向けのテレビ番組から思いついたらしい。でもよくいりこ絡みで思いついたよね?
「いやいやだって山下さん。今日ずっと、いりこダシのことばっかり話してましたよ」と彼女、そして彼も。

あぁ、そうか。確かに。

僕の出身は香川県。三食うどんになることだってあるし、それは普通のことだった。自宅で暮らしていた頃、うどんが好き、って特段意識したことはなかったけど、やっぱり好きなんだな、って思う。

うどんを渇望するようになったのは、大学進学で一人暮らしを始めたとき。どこでうどんを食べてもおいしいと思えない。僕の食べたいうどんとは、なんだかどこかが違う。高級なうどん屋に行けば少しは違ったかもしれないけれど、学生はそんな有名うどん店には行かないし、そもそもそんな発想はない。一年も経たないうちに、普段の食事にうどんを食べることはすっかりなくなってしまった。

なにが違うのか、ようやくわかったのはずいぶん後になってから。あぁ、かつおダシだからなんだって。
ダシ?そこ?讃岐うどんなんだから、コシの間違いなんじゃないの?きっとそう思う人が多いんだろうな。

どんなにおいしい麺でも、いりこダシじゃないと僕はうどんを食べた気がしない。大阪うどんや京都のうどんを否定するつもりはさらさらないし、近頃は、おいしいなぁって思えるようになってきた。でも、僕のうどん欲をほんとに満たしてくれるのは、いりこダシ。

そんな話を延々と彼女たち夫婦に向かってしゃべってたんだな、きっと。いりこなんだよ、だから僕がおいしいと思ういりこダシをつくって、それでうどんを食べて欲しいんだよ、って。
彼女はとても素直に感じたんだと思う。あぁ、そんなにいりこダシが好きなんですね、お客さまに召し上がって欲しいのは、いりこダシに合ううどんなんですね、って。

だから、イリコスキー。

自分がそんなにこだわってたこと、自分が一番大切にしてることにヒントがあるのに気がつかないなんておかしい、と思ったりもするけど、そんなものなのかもしれないな。特に僕の場合はね。
つまり、彼女に相談したのは大正解。ありがとう。


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